遺産の争いに巻き込まれたくない等の事情で、相続から離脱したいとお考えの方も多いのではないでしょうか。

上記の3つの制度は似ているようで、全く違います。

簡単に解説していきます。

相続放棄とは

これがみなさんの思っている「相続を放棄する方法」ではないでしょうか。

「相続放棄」をすると、相続開始時より相続人では無かったものとして扱われ、相続人が確定的に相続の権利義務を失います。

相続人ではなかった者とみなされるため、相続財産の一部を放棄するといった方法もできません。

また、相続開始前になされた相続放棄は無効です。

被相続人が亡くなった後、しっかりと考えて意思決定しましょう。

相続放棄をする方法は、自己のために相続があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所への申述等の手続きが必要です。

また、一度放棄すれば、撤回することはできません(民919条1項)

相続「分」の放棄とは

相続放棄ととても似ている名前ですが、こちらは「相続分の放棄」です。

中身は全く違います。

まず相続分の放棄については、明文規定がありません。法律に書いてないということです。

そのため解釈の余地を残していますが、実務では他の共同相続人に放棄者の相続分を帰属させる目的で行われています。

相続放棄との最大の違いは、あくまで相続人のままということです。

「相続放棄」は相続人ではないものとしてみなされましたが、「相続分の放棄」では、相続人としての地位は失われません。

従って、もし相続債務があるような場合、プラスの財産は放棄によって失うけど、マイナスの財産(債務等)は相続人として承継します。

「相続分を放棄したから、自分には関係ない」とはならないので、注意してください。

「相続放棄」は期間の制限がありましたが、「相続分の放棄」では期間制限がありません。遺産分割前であれば、いつでも可能です。

方法としては、他の共同相続人に放棄の意思を表示するか、家庭裁判所での調停・審判において、その意思を表示します。

相続争いがおきていて、遺産分割調停も長引きそうな場合、相続分の放棄をすれば、遺産分割手続きにおける当事者適格を失いますので、その争いから離脱することができます。

こうしたメリットは一応あります。

但し、先ほども述べたように、債務は承継しますので、被相続人に債務が無かったかをよく確認の上、意思表示を行ってください。

相続分の譲渡とは

積極財産と消極財産を包含した、遺産全体に対する譲渡人の割合的な持ち分の移転と解するのが判例の立場です。

他の共同相続人に渡すことももちろんできますが、第三者に、つまり相続人ではない他人に渡すこともできます。

「相続分の放棄」では、プラスの財産だけを渡すということでしたが、「相続分の譲渡」では譲受人は相続債務も承継します。

但し、譲渡人と譲受人の当事者間ではそれでいいのですが、この相続分の譲渡は債権者の関与が無く行われるものなので、債権者がいるならば、譲渡人はその相続債権者との関係では債務を免れないと考えられています。

つまり、「債務も承継してね」と相続分を渡したけど、債権者はそんなこと知らないので、譲渡人に「払ってください」と言うことができ、後に譲渡人が譲受人に、求償できるというような感じです。

また、相続部の譲渡は、相続分の一部を譲渡することもできます。

全部を譲渡した場合、相続分の放棄と同様に、遺産分割手続きの当事者適格を失うと考えられていますので、相続争いから離脱したい場合に用いられます。

まとめ

できるだけ簡単に書いたつもりですが、わかって頂けたでしょうか。

とりあえず重要なことは、相続放棄と相続分の放棄という、名前は似ているけど全然違う制度があるということを認識して頂ければと思います。