持戻し免除の意思表示推定規定(民903条)
配偶者の取り分を計算するときには、生前贈与分も相続財産とみなされます。
これはややこしいのですが、配偶者を保護するための規定ということを念頭においてください。では事例で考えてみましょう。
相続人は配偶者と子供2人です。相続財産は自宅2000万円と貯金1000万円です。被相続人より配偶者に自宅の生前贈与が行われています。
法定相続分で遺産分割すると、相続分は配偶者1500万円、子供は各々750万円ずつ相続します。
子供2人には計1500万円を渡さなくてはいけないのですが、貯金が1000万円ですので足りません。配偶者は自宅を売却してお金を用意しなければなりません。
これでは被相続人が贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果に反映されませんよね。
そこで改正法の903条の出番です。
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、配偶者に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与したときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない意思を表示したものと推定する(903条4項)
つまり、当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに、計算することができ、その結果贈与等を行った被相続人の趣旨に沿う遺産分割が可能となります。
上の事例に当てはめると、2000万円の自宅は遺産分割の対象から外れるため、残りの貯金1000万円のみが遺産分割の対象になります。
法定相続分によって計算すると、配偶者が500万円、子供2人は各々250万円ずつ相続します。自宅は配偶者のものですので、配偶者の取得額は最終的に2500万円となります。
どうでしょうか。
こうした方法でも、長年連れ添った配偶者を守ることができます。